元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
清く正しい同居生活も、契約期間の半分を過ぎたことになる。
土曜日の朝食は、一緒に食べることが多い。
出海君の希望で今日はパン食。
トーストに、オムレツに、野菜スープ。
出海君は、美味しいです、と言いながら、本当に美味しそうに食べてくれた。
大きな幸せで少しの切なさを誤魔化しながら、同じメニューを口に運ぶ。
「希奈さん、チケット買いますので売ってください」
食後のカフェオレを飲みながら出海君が言った。
「……うちの定演のチケットのことをおっしゃってます?」
「はい。チケットノルマあるのでしょう? せっかくですので希奈さんから購入させていただきます」
「……というか、聴きにいらっしゃるんですか?」
「もちろんです」
……嬉しい。嬉しいけれども。
「地方のアマオケですよ。今回は協奏曲ないですよ。交通費の方が高くつきますよ」
「聴きたいので、チケット代は安いものです。交通費は仕方ないですね」
「じゃあ、せめてものお礼に、差し上げます」
「それは、なんだか申し訳ないです」
「お世話になってるので、ご招待です」
「そうですか……。では、お言葉に甘えて、1枚、いただきます。
それから、定演が終わった1週間後の金曜夜からの週末は、何か予定がありますか?」
あ。引っ越しのことだ。
胸が痛むのを抑えて、微笑みながら答える。
「いえ、ありません」