元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
私が黙っていると、出海君が言った。

「定演お疲れ様でした、ということで行きましょう。もちろん、チケット代は僕持ちです」

……ああ。あの時と同じ。

苦い笑いがこみあげてくる。

庶民には高いチケットも、彼にとってはポンと出せてしまうんだ。
しかも彼女でもない女に対して。

嫌味ではなく、住む世界が違うんだなぁ、と。

「行きたいのですが、私の分は自分できちんとお支払いします。理由もなく男性に支払わせるわけにはいきませんので」

「理由はあります」

てっきり、しゅんとして引き下がるのかと思ってたら、出海君は強い口調で言った。

私は意外な展開にぽかんとして出海君を見る。

彼は真剣な顔で続けた。

「希奈さんにしていただいている労働はかなりの価値です。僕はそれなりの対価を払いたいし、感謝の気持ちを形で表したい。自分で働いて稼いだお金をそうやって使いたい。男だからってほいほいそこらの女性にお金をばらまくほどお人好しじゃありません」
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