元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
……頭から冷たい水をかぶった気がした。

私はこの人を甘く見てた。

もう、かつてのお坊ちゃんじゃないのに。

怒らせた? 嫌われた?

そう思っただけで泣きそうになる。

どうしよう。どう弁解しよう。

俯いて、必死で言葉を組み立てる。

「……ごめんなさい……そういうつもりではなくて……男性からそんなに高いものをもらったことがないし、私にそれだけの価値があるとは思えなくて……つい……」

「大丈夫」

私の情けない、くどくどとした言い訳は、爽やかで力強い声に遮られた。

思わず顔を上げて出海君を見ると。

にっこり、明るい笑顔がそこにあって。


–––––––「大丈夫。

希奈さんは充分に価値のある女性です。

だから、行きましょう?」



…………心臓を、撃ち抜かれた。



……もう、これだから出海君は。

惚れるよ。
もしかしたら、って変な勘違いしそうになるよ。

そして、“この人の特別になりたい”と思ってしまうじゃない。

もう。もう。




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