元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました

男性は静かな顔と口調で言った。

「君、出海と一緒に住んでるの？」

……！

この声、やっぱり！

–––––––黒川ミシェル！

隣に住んでるとは！
しかも出海君を『出海』って呼ぶくらい親しいとは！

びっくりして立ち尽くしていると、彼は表情を変えずに問いを重ねてきた。

「君は、出海の何？」

……何って。

……何だろう。

「彼女には見えないけど」

……彼の言葉に心がチクっとしたけど、気づかないフリをして答える。

「……家政婦です」

私が言うと、彼は静かに「なるほど」と言って、ドアの向こうに消えていった。

……ははっ。
思わず心の中で笑ってしまった。

そっか。
彼女には見えないんだね。
家政婦で納得されるんだ。

当たり前だ。

気にすることじゃない。


ただ、これから黒川ミシェルの演奏をこれまでみたいに無条件で好きになれない気がする。

……っていうか、出海君、隣に住んでるってこと、隠してたな。しかも親しいってことも。

悪戯心なのか、プライバシーに配慮したのか。