元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
日曜日の夕方。
出海君の家に帰って、挨拶しようとリビングを覗くと、出海君はソファに座っていて、テーブルにはヴァイオリンケースが広げられていた。
「ただいま戻りました」
出海君はこっちを見て、「お帰りなさい」と微笑んでくれた。
胸がきゅっとするけど、それよりも!
「弾くんですか⁉︎」
「弾きませんよ。虫干しです」
あっさりとかわされた。
出海君はケースの中のヴァイオリンを見つめている。
大学時代と同じケース。同じヴァイオリン。懐かしい。
「未練たらしく、手元に置いているんです。誰かに弾いてもらったほうが楽器にとっていいのはわかっているんですけどね。いつか弾ける時が来たらと思うと、つい」
出海君の視線と口調は、
本当に愛おしそうで、
なおかつ、寂しそうで。
私は胸が痛くなって、
つい、口が動いていた。
「好きなら、弾いちゃえばいいじゃないですか」