元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
その夜の晩御飯を一緒に食べていると、出海君が言った。
「次回はブラコンとマラ1なんですね。ホームページ見ました」
我が市民オケ、次の定期演奏会のプログラムは、ブラームスのヴァイオリン協奏曲(=コンチェルト)と、マーラーの交響曲第1番。
オケのホームページに載ってるの、見てくれたんだ。
「はい。キリ番の記念演奏会なので、大曲が2曲です」
「重くて大変ですね」
「そうなんです」
……もし、現在の契約延長をお願いすれば、出海君は断らないんじゃないかと思う。
でも、当人達は健全な同居生活を送っていても、外から見れば不健全であることは自覚している。
会社にばれたら出海君に迷惑がかかる。
それにもし、出海君に好きな女性ができたり、親御さんから(本当にあるのかどうか知らないけど)政略結婚を命じられるなんてことになったら、私の存在は出海君を困らせる。
延長はすべきじゃない。
これが週末、自分の家でグダグダ悩んで出した答えだった。
切り出すなら、今だ。
「引っ越しのことなんですけど」
「はい」
「今回の定演が終わったら自宅に戻りますが、大きな荷物は置かせていただいて、その週末に運んでもいいですか?」
「いいですよ。それじゃ、金曜日一緒にコンサートから帰ってきて、そのままここに泊まって、次の土曜日に運ぶことにしましょうか?」
「そうさせてもらえるとありがたいです」
「また僕の車でお手伝いしますね」
「助かります」
寂しいけれど、どこかすっきりした気持ち。
何だか彼氏と別れた時の気持ちに似ているなぁ、と思った。