元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました

出海君と一緒に暮らせる残り少ない時間。
私にできることをやろうと思って。

心をこめて食事をつくり、
掃除をし。

今までで一番気合い入れてヴァイオリンの練習をした。

そうして、今週末に演奏会本番を控えた、木曜日の夜。
出海君に晩御飯を作る最後の日。
出海君のリクエストは、『肉じゃが』だった。

今まで出海君のために作ったことはない。

……だって、ねぇ。いかにも、な感じがして、作りにくくて。

でもリクエストなら仕方ない。

牛肉か豚肉か迷って、結局両方入れることにした。


その日、出海君は早く帰ってきて、一緒に晩御飯を食べることになった。

出海君はいつも通り「おいしいです」と言ってくれて、きれいな仕草で食事を進めていく。
そして、話すときは絶対口の中に食べ物がなくなってからだ。

「来週のコンサートの後は、どこかで食事をしてから帰宅しましょう」

出海君が誘ってくれたヨーロッパオケのコンサートは、金曜夜7時開演。
仕事を終わらせてから行くとなると、コンサート前に食事をとるのは時間的に厳しい。
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