元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
出海君と外食。

単純に、うれしい。
でも、私なんかが、っていう気後れする気持ちもある。
それに心配なのは、また出海君にお金を払わせてしまうことだ。

「それじゃあ、私が、」
「勿論僕にご馳走させてくれますよね」

……むむ。先に言われた。
まあ確かに出海君に恥をかかせるわけにはいかないけれど……

「フレンチと和食どちらがお好きですか?」

ちょっとちょっと! この御曹司!

「フルコースとか懐石料理とかは遠慮しますからね!」

私が慌てて答えると、出海君は目を丸くしてから、苦笑した。
危ない。図星だったのか。

「じゃあ希奈さんは何が食べたいですか?」

脳みそをフル回転させて答えを探す。

「ええと……、ラーメン、です」

出海君は今度はぽかんとしてから、笑った。

「ラーメンときましたか」

「だって割と遅い時間でしょうから、重過ぎないもので、家で作れないものと思って」

料金も、たかが知れてるしね。

「よし。了解です」

出海君はいたずらっぽく笑った。



晩御飯の後、お金の精算をした。
出海君から現金を預かって、支出していた食費や日雑費。
これまでのレシートを提示して、余った現金を出海君に返す。

「……こんなに余ったって、本当ですか? ちゃんと全部含めてますか?」

「勿論です」

「希奈さんは、やりくり上手ですね」

「出海君にふさわしい食事だったかどうか」

「それはもう、贅沢な食事でした。ありがとうございました」

お世辞でも、うれしい。




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