元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました

演奏会当日。
本番の演奏は成功といっていいと思う。
演奏中の手ごたえからも、お客様の拍手からも、指揮者と団員の充実した表情からも、そう言える。

私はというと、ここ2ヶ月の練習のおかげで、演奏に貢献できた……と思うし、コンマスの三神君からも
「さすが希奈先輩。一時はどうなることかと心配しましたけど、先頭に立って引っ張ってくれる演奏をありがとうございました」
というありがたいお言葉をいただいた。

出海君に感謝する。

そして、こうして音楽ができる環境に感謝する。

出海君、聴いてくれたかな。





終演後。
帰り支度をしてホワイエに上がっていくと、

「はい、藍沢さんに届いたお花。重いから気をつけて」

と、セカンドヴァイオリンパートリーダーの永野さんから、大きな袋を渡された。
受付に、知り合いからお花やプレゼントが届けられることがあるけれど、今までで一番大きい袋だった。
そんなにたくさんもらう心当たりはないけれど……と半透明の袋の中を覗くと、大きな籠入りのアレンジメント。

「あの、すごく不躾なお願いで申し訳ないのだけど」

私より少し年上のクールビューティな永野さんが、真剣な、でも少し興奮した顔で言う。

「そのアレンジメント、あまりに素敵みたいだからよく見せてもらってもいい?」

永野さんは花屋さんをやってるから、興味があるんだろう。
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