元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
出海君はプログラムをめくり、ざっと目を通してから、興味なさそうにパタリと閉じた。

「希奈さんのオケのプログラムの曲目解説は面白かったな。しかもイラスト入り」

“手元の解説が退屈だった”と言わんばかりの口調に、思わず苦笑してしまった。

「あれですか。少しでも楽しんでもらおう、曲に興味持ってもらおうってことで、できるだけ柔らかくしてます。でもアマオケだから許されるもので、格式高いプロオケにはそれなりの評論家のお堅い文章が求められるのは仕方ないのでは」

「まあ確かにね。でも僕は希奈さんのオケの方が好きだなぁ。面白くて読み返したくなるプログラムってすごく得した気分。ファンサービスってアマオケにもすごく大切な視点だと思う。お客さんがあれだけ入ってリピーターが多いっていうのもうなずけるな」

「……ありがとう、ございます」

自分が褒められたみたいに嬉しい。
出海君が私にたくさんしゃべってくれるのも嬉しい。
こんなに近くにいられるのも嬉しい。
同じ空間で同じ音楽を聴けるのも嬉しい。

……どうしよう、幸せすぎる。

出海君が当初誰を誘うつもりでチケットを取ったかなんて、どうでもいいや。
誘ってもらって、今ここで隣にいるのは私だ。
数時間、一緒に過ごせるなんて、すごいご褒美だよ、出海君。

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