元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
一呼吸の後、万雷の拍手と。

「Bravo‼︎」

隣の出海君をはじめ、あちこちから声が飛ぶ。

かっこいいなぁ、出海君のブラボー。

それに、いいなぁ、男性はブラボーが叫べて。
いや別に女性も叫んでいいんだろうけど、叫んでる女性を見たことがないし、私は叫べない。
その分、大きな拍手を送る。
やっぱりこの人のピアノが好きだなと再認識させられた。
なんだか悔しいけれど。

ふと隣の出海君を見ると、ちょうど彼も私の方に顔を向けたところだった。

お互い、興奮で紅潮した表情で、すごかったね、とうなづき合う。

感動を共有できるのって、なんて幸せ。


拍手に応えて、ソリストアンコール。

落ち着いた、静かな曲。
誰の曲だろう?

さっきのオケ+ピアノの重く厚い音から一転、儚く繊細に響くピアノソロ。

美しく、神々しく、優しい。

そっと曲が閉じられると、また、余韻を味わう客席。
この連帯感、いいなぁ。

拍手をしながら、また、出海君と目が合った。

「絶品ですね、彼のラフマニノフ」

拍手の音がものすごくて聞こえにくかったけど、たぶんそう言ったと思う。

「さっきのもラフマニノフだったんですか」

オケ曲のイメージとは違ってわからなかった。

出海君も私の声が聞きとりにくかったんだろう、私の耳に顔を寄せてきた。

うわっっ、近い!!

「ラフマニノフのプレリュード。13の前奏曲の5番ですね」

……“ラフマニノフ”も“プレリュード”も、目新しい言葉ではないのに。

こんなに色っぽく聞こえるってどういうこと。

たぶん、私、今、顔が真っ赤だ。

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