元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
休憩時間にお手洗いに行ってクールダウン。
列に並びながら頭の中に流れるのは、さっきの演奏と、出海君の声。
……また頬が火照るので、手の平でパタパタとあおぐ。
ラフマニノフ、私の中で特別な作曲家になるな、これは。
客席に戻ると、出海君は既に座っていた。
隣に座れる幸福をかみしめながら腰を下ろすと、出海君が、
「魂、抜かれた感じです」
と、苦笑しながら言った。
「わかります」
「……ちょっと言葉が出てきません」
「いいですよ、無理に話さなくて」
「ありがとう。後でラーメン食べながら話しましょう」
「自分で言い出したとはいえ、雰囲気ないですね。フレンチや和食でなくてすみません」
出海君が笑ってくれた。
私に向けてくれた笑顔に、胸がきゅっとなる。
「でも、ひとつだけ。僕は今、すごく幸せです」
……素晴らしい演奏を聴いて幸せだ、っていう意味なのは分かってる。
でも、私にそれを言ってくれることが、とても嬉しい。
「私も、同じです」
私は、あなたの隣で、同じ時間を過ごせて、感動を分かち合えることに、とても幸せを感じます。