元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
後半はブラームスの交響曲第4番。
ブラームスは交響曲を4曲残しているのだけど、そのうち最後の4番は“ブラームスらしさ”が目白押しで、ファンにはたまらない。
聴きごたえがあって、オーケストラっていいな、交響曲ってすごいな、と再認識できる曲。
そんな大好きな曲を、期待通りの素晴らしすぎる演奏で味わえるなんて、至福と言わずして何と言おう。
圧倒的な質量をもって迫ってくる音の波。
低音はホールを底から揺らし、高音は気持ちよく突き抜けていく。
私としてはどうしてもヴァイオリンに注意がいってしまうのだけど、ファーストヴァイオリンが上手いのはもちろん、セカンドヴァイオリンが下や中ですごく“効いてる”。内声が充実して、ブラームスらしさ倍増。
技術的に上手いのはもちろん、音楽的にも分厚くて豊か。
第一楽章から涙が溢れてしまい、楽章間で慌ててバッグからハンカチを取り出して、顎と首に溜まった涙を拭う。
と、隣の出海君もスーツの内ポケットからハンカチを取り出し、同じ動作をしているのが気配でわかった。
……胸がぎゅうっとなる。
そして、あろうことか、
抱きしめたい、と思ってしまった。
そう思ってしまった自分に動揺していると、第二楽章が始まり、慌てて不埒な考えを振り払う。
ゆったりと流れていく第二楽章。
森の中。陽がこぼれたり、鬱蒼として暗くなったりする小道を、思索にふけりながら散歩するイメージ。
陽気で活発な第三楽章。
明るい、お日様の匂いがする。
たまに曇るのだけど、その憂いがまたいい味。
間を置かず、最後の第四楽章が始まった。
大好きだけど、もうすぐ終わってしまうと思うと、切なくて、短調の緊迫感とも相まってまたジワっとくる。
そこへ、泣かせるメロディがやってきて、もう、再び涙が止まらなくなってしまった。
曲が展開していくのはワクワクするけれど、終わりに近づいていることも意味する。
ブラームスが人生の苦さを込めたという曲。
自分の心情と相まって、いっそう心に染みる。
今日のことは、一生忘れないだろうと思う。