元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
拍手を送りながら、隣の出海君を見ると、自然と目が合った。
出海君は目と鼻が赤くて、それはきっと私も同じ。

お互い微笑み合う。

すごかったね、の感動と、
泣いちゃったね、の恥じらいと。

言葉を交わさなくても気持ちが通じて、
また、好きだなって思ってしまって、
熱くなった心は、その周りにある、“王子様と庶民との恋愛は無理だ”と縛る鎖を溶かしていく。

ステージ上のオケの方々に拍手を送りながら考える。

クラシック音楽演奏者ピラミッドの底辺にいる私が、頂点に立つ彼らに手が届くことはない。

でも。

出海君は、手を伸ばせば届く距離にいる。


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