元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
–––––––弾きやすい!!!


あんなに何度も何度も練習したのに弾けなかった箇所が、あっけなく弾けてしまった。
うまく跳ばせて、綺麗な音で。
すごい!
私の音じゃないみたい!


ところが、魔法にかかったような感動は、他ならぬ出海君の言葉ですぐにしぼむ。


「ああ、やっぱり。希奈ちゃんのせいじゃないよ」


にっこり笑う王子様。

魔法は続いていい場面なのに、

すぅっと感動はさめて、

ものすごく複雑な気持ちになった。


彼は、純粋に優しい王子様だった。


私のせいではない、と励ましてくれたのだと思う。

だけど、裏を返せば『弓のせい』。

私が当時使っていた弓ははっきりいって安物だ。
ヴァイオリンは身長に合わせて楽器を買い替えていかなければならない。一般家庭である我が家にとっては、金銭的負担が大きい。そのうち使わなくなるものに高いお金は払えない。安物ですませるのは当たり前だった。
とはいえ、安物といっても、親と祖父母がお金を出し合って買ってくれたもの。私にとっては大事だし気に入っているものだった。

彼にそれをけなすつもりは全くなかっただろう。

もちろん彼が高い楽器を使ってるから上手いのではないこともわかる。

頭ではわかるけど、そこは小学生、心との折り合いがつけられなかった。
< 9 / 108 >

この作品をシェア

pagetop