元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
「おや佐々木君、こんばんは」
興奮が渦巻くロビーを出口に向かっていると、出海君が老紳士に声をかけられた。
「高橋先生! こんばんは、ご無沙汰しています」
出海君と老紳士は社交的な挨拶を交わしてから、別れた。
去り際に老紳士が出海君の後ろに控える私を見たので、慌てて頭を下げる。老紳士は上品に微笑んで、去っていった。
「あらまあ佐々木君も来てたのね!」
続いて、ゴージャスなおばさま登場。
「こんばんは。鈴木さんもいらしてたんですね」
「そちらの方は?」
私に興味深々の視線を送り、そう言うものだから、居心地が悪い。
「大学の先輩で、今は同じ会社で働いています。趣味がヴァイオリンなんです。僕と違って現役なんですよ」
「まあ、それはそれは」
おばさまの目つきが好意的なものに変わる。
いや、セレブでなく庶民なんですけど。
とりあえず会釈。
「今日はプライベートですので、すみませんがこれで失礼します。また改めてご挨拶させていただく機会もあるかと思います」
では、と歩き出す出海君。
その後も出海君は何人かお知り合いと会釈や簡単な挨拶を交わしながら、出口へと進んでいく。
……さすが、顔が広い。
……そして、鮮やか。
……それから、思い上がりかもしれないけど、守ってもらった気がする。