元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました

コンサートホールを出ると、隣を歩く出海君が言った。

「ラーメン屋まで少し歩くんですが、大丈夫ですか? タクシー乗りますか?」

「大丈夫です、歩きます。ずっと座ってたのでむしろ歩きたいです」

というのは建前で、単に出海君と一緒に歩きたいだけなんだけど。

「ふふ、僕もです。それに、音の波と渦で結構酔ってるんで、酔い覚ましに歩きたい」

「同じくです」

顔を見合わせて笑った。




お互い黙って歩く。
出海君は私の歩く速度に合わせてくれているのがわかる。

手を伸ばせば届く距離。

腕を組んでくっつきたい。
手をつなぎたい。

私が手を伸ばしたら、出海君はどうするだろう?



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