元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
出海君のことが好きだ。一緒にいたい。

告白したら、困らせるかな。
先輩に親切にしたばかりに、惚れられたら、そんなつもりじゃなかったって逆に謝られそう。でも断るのもきっと傷つけないように気を遣ってくれるだろうな。

もし。
もしも。
付き合うことになったとする。
でも、その先は?

育った環境は違うし、今日の彼の終演後の姿は、明らかに上流階級の人のものだった。

男女関係で大切なのは価値観の一致だという。
破綻せずにやっていける?
結婚を考えられる?
出海君の社会で、庶民の私がやっていける?
それならこの関係のままの方がよくない?


うだうだ考えていると、ドアから「希奈さん、お待たせしました、お風呂どうぞ」という出海君の声がした。
返事をしてから、出海君の気配が遠ざかったのを確認し、バスルームへと向かった。



バスルームは、出海君が使っているボディソープの香りがした。
いつもは私が先にシャワーを浴びていたから、出海君の後に使うのは初めて。

……やばい、ドキドキする。

いい歳の女性なんだもの、仕方ない。
はっきり言って、そういうことしたいと思うくらいに、彼のことが好きだ。
でも、引かれたり嫌われたりするのがすごく怖いと思うくらいにも、彼のことが好きだ。

今夜が、こうして一番近くにいられる最後の夜だけど、明日も一緒。
今夜関係が悪くなって、明日気まずいなんてことになったら、最悪だ。

今夜はこのままでいよう。

今夜悩んで、前向きな結論になったら、明日、次の約束を申し出てみよう。
それで振られてもちょうどうまく気持ちを切り替えられる。



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