千年桜
 京都駅から市バスに揺られ、祇園駅を目指す。
無論一定区間内五百円で回れるバスカードで。

 千年桜―それが今回の取材内容だった。

正確には、『桜メール』の真相に迫る、というもの。
千年桜を見つければどんな願いであろうと必ずかなう、という内容で受験シーズンも重なっている為か、
中高生の間で流行しているらしかった。

 この時期よくあるチェーンメールの類だろうが、その為に引っ張りまわされる私の苦労も考えて欲しいものだ。
そりゃ、本当だったら大スクープだけど、今どき誰がそんなもの信じるのよ。
 本日何度目になるか分からない溜息をつき、鞄をかけなおす。
こんなくだらない仕事さっさと終わらせて絶対に長期休暇とってやる・・・。

 京都で年越しというのも風流だと思ったのだが、降りた先―祇園駅近辺は思ったよりも人はいなかった。
八坂神社を覗きたい気持ちはあったが、まずは千年桜。
私は八坂神社を通り越して公園へと足を進めた。
 公園内は観光客が減っているせいか緑が少ないせいなのか、とても閑散として見える。
その中でもどっしりとした存在感を感じさせていたのは大きな枝垂桜。
裸になってしまっている枝垂桜は春には見事な花を咲かせ、人々の心をとらえる。

「ここだと思ったんだけどな………」

 まあ、暖冬とはいえ年も終わろうこんな時期に狂い咲く桜なんてないわな………。
 ベンチへと視線を移すと、空き缶や新聞を片付けている老夫婦の姿があった。
ずり落ちそうな鞄を肩にかけなおし、ベンチへと向かう。

「お手伝いさせてもらっても?」

 私の言葉に老夫婦は一瞬驚いた表情を見せたが、人の良さそうな微笑みで快い返事をくれた。
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