華麗なる国王の囚われ花嫁~若き絶対君主の一途な愛~
「――あら、ソフィア様。お部屋、移動なさられたのね」
感情のない冷たい声に背筋がひやりとし、身体の動きが止まった。
特別なにもしていないのに、息が荒く激しさを増す。
鼻で呼吸をするには苦しくて、口で息を吐きながら、私はゆっくりと後ろを振り向いた。
「どうなさったの?そんなに息を切らして」
振り向いた先には、扇で口元を隠してはいるが、明らかにその後ろで微笑みを浮かべている、ひとりの女。
―――しかし、その瞳は憎悪で満ち溢れていた。
そこに立っていたのは、紛れもなくあのエリスだった。
その異様な佇まいに、ますます鼓動が激しくなる。
「ふふふ、どうなさったの?そんな怖い顔をして」
エリスは笑いながらそう私に言った。
パチリ、と音を鳴らし口元を覆っていた扇子を閉じる。
そこからは綺麗な朱色の唇が怪しく弧を描いていた。