華麗なる国王の囚われ花嫁~若き絶対君主の一途な愛~
……それから処刑の当日まで、王子が牢へ現れることはなかった。
ようやく私から、恐怖におののいた言葉を引き出すことを、諦めてくれたらしい。
まあ、私に構うほど暇ではないだろうし、なにより私に会い不機嫌な思いをするのは、王子としてもこれ以上望んではいないのだろう。
そんなこと、考えなくても当たり前だ。
そう、これでいい。
これがあるべき姿。
王子自らがこんな場所に来ることが、異常だったのよ。
いつも通り食事と用を足す以外は、ベッドの上に座って無を貫く。
見張りの騎士が動かなければ牢の中はとても静かで、しん、と耳鳴りのような音しか聞こえない。
目を閉じて、さらに闇の世界へと旅立つ。
その時間は長いような短いような、今までにはない感覚だった。
死を待つ人間には、そういった時間の経過も、曖昧にさせる力があるのだろうか。
「あと、もう少し」
か細く、消え入るような声でぽつりと漏らす。
幸いその声は見張りの騎士には聞こえていないようで、身動きひとつすることはなかった。
―――そして、処刑の日はやってきた。