華麗なる国王の囚われ花嫁~若き絶対君主の一途な愛~


意を決して、私は目の前の食事を口へと運ぶ。


幸いワインの隣に水の入ったグラスがあるから、食べづらくてもそれで流し込めばいい。

その水だって、まったく冷えてないものだけれど、牢のかび臭い水に比べたらまったく気にならない。

なにを取っても、あの場所とここでは雲泥の差なのよ。


案の定、料理の世話をする侍従たちは、平然と食べる私にチラチラと視線を向けては眉を顰め、そして気まずそうに目を逸らした。


……驚いてる驚いてる。

だてに、これまで劣悪な環境の中で病気もせず、生き延びた私じゃないわ。

初めは少しイライラとしてしまったけれど、侍従たちの表情に幾ばくか胸の内がスッとする。



……と、何気なく向かいのエリスに目をやった。




エリスは料理もそこそこに王子となにやら談笑している。

王子の表情を見る限り、エリスを見るその瞳は穏やかで、まんざらでもないように見える。


やっぱり気心知れている仲ではないの。

話の内容も私にはわからないものだし、無理にふたりの間に入って話をするのも、なんだか水を差すようで申し訳ない。

自己紹介も済んだことだし、料理もほぼ食べ終わったことだし、ここは一足先にお暇したほうがいいのかもしれない。

そう思った私は、両手に持ったフォークとナイフを、空になった皿の上に置き、ナプキンで口を拭く。

そして『ごちそうさまでした』と小さな声で呟くと、席を立つ。

私が唐突に席を立ったものだから、王子はエリスとの会話を途中で止め、私の方を驚いたように見つめた。

< 56 / 169 >

この作品をシェア

pagetop