華麗なる国王の囚われ花嫁~若き絶対君主の一途な愛~
意を決して、私は目の前の食事を口へと運ぶ。
幸いワインの隣に水の入ったグラスがあるから、食べづらくてもそれで流し込めばいい。
その水だって、まったく冷えてないものだけれど、牢のかび臭い水に比べたらまったく気にならない。
なにを取っても、あの場所とここでは雲泥の差なのよ。
案の定、料理の世話をする侍従たちは、平然と食べる私にチラチラと視線を向けては眉を顰め、そして気まずそうに目を逸らした。
……驚いてる驚いてる。
だてに、これまで劣悪な環境の中で病気もせず、生き延びた私じゃないわ。
初めは少しイライラとしてしまったけれど、侍従たちの表情に幾ばくか胸の内がスッとする。
……と、何気なく向かいのエリスに目をやった。
エリスは料理もそこそこに王子となにやら談笑している。
王子の表情を見る限り、エリスを見るその瞳は穏やかで、まんざらでもないように見える。
やっぱり気心知れている仲ではないの。
話の内容も私にはわからないものだし、無理にふたりの間に入って話をするのも、なんだか水を差すようで申し訳ない。
自己紹介も済んだことだし、料理もほぼ食べ終わったことだし、ここは一足先にお暇したほうがいいのかもしれない。
そう思った私は、両手に持ったフォークとナイフを、空になった皿の上に置き、ナプキンで口を拭く。
そして『ごちそうさまでした』と小さな声で呟くと、席を立つ。
私が唐突に席を立ったものだから、王子はエリスとの会話を途中で止め、私の方を驚いたように見つめた。