私がキスしたいのはあなたです。
涙を流しながらふと我に返る。
そういえばバタフライのレースがもうすぐ始まるはずだ。
ごしごしとジャージで涙をふく。
もし涙の跡が残っていても、決勝に上がれなかったことへの涙だと思われるだろう。
急いで観覧席に行くと、ちょうど小川のレースがスタートしようとしていた。
笛がなり、スタート台の上に立つ。会場が静かになる。誰かの息をのむ音が聞こえる。
レースが始まると、小川の独壇場だった。
変わらない泳ぎ方なのに、昔よりも断然速い。変わらないかっこよさなのに、昔よりも断然力強い。
小川の泳ぎだ。
これに私は憧れたんだ。
小川が1着で決勝に駒を進めたことを確認すると、急いでプールの出口へ向かった。
しばらくすると、ダウンを終えた小川が出てくる。
声をかけようとすると、私より先にたくさんの女子たちが小川のもとに群がる。
小川が囲まれるのは本当に一瞬だった。
そうだよね、そりゃモテるよね。
私はなんだか寂しくなった。
小川に惚れてるのは私だけじゃなかったんだ。
私は結局、声をかけることができないまま、休憩所まで戻った。