月と地球と彼女と僕と。
「いつも出させてすいません。今日こそは奢ろうと思ってたのに。」


店を出てアサコさんに言う。


「なんで、いいじゃない割り勘で。ずっとそうだったじゃない。それに本当なら働いてる私の方が奢ってもいいくらい。こちらこそだよ。」


アサコさんと僕がご飯を食べる時は必ず割り勘。僕だってバイトしてるし奢ることも出来るのに変に気を使い合うのは嫌だからって。


そりゃ、社会人で働いてるアサコさんに比べるとバイトで僕が稼ぐのなんてしれてるけど。でもやっぱりここは男として格好良くって思うんだけどなぁ。


社会人になればやりたいことがある。トイレに行くフリしてさらっと会計済ませるやつ。あれ、やりたいんだよなぁ。憧れる。だけどーーー


こうしていつまでアサコさんと一緒にご飯食べたり出来るかな。


少しずつお互いの環境が変わっていく中で僕とアサコさんの距離はどうなるんだろ。


本当はさっきみたいに時々、弱々しく泣きそうな表情(かお)をするアサコさんをぎゅっと抱きしめたいって思うこともある。


何が不安なのか僕には分からないけど、ただただ大丈夫だよってその不安が消えるまで強く抱きしめたい。


あー、そんな事、考えてるのバレたらさすがに引かれるよな。


ダメだ、ダメだ。


落ち着け、自分。


「どうかした?」


心配顔で覗き込んでくるアサコさんにあらぬ妄想し悶てるなんて死んでも言えない。


「いや、なんでも。」


「そう?それなら良いけど。」


ほら、また。


また、そんな顔をする。普段から落ち着いて大人っぽいアサコさんだからこそ、気になって仕方ない。


何が不安なの?って。


つい抱きしめそうになる手を誤魔化そうと伸びをしてみる。すると見上げた空に月がぼんやり出ていた。















< 5 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop