凪ぐ湖面のように
「湖の姫には、反対する親をも納得さす行動を取って欲しかった。そしたら、二人は悲恋ではなく、本当の意味で幸せだったと思う。逃げるだけでは一生幸せになれない。ワシはそう思うんだよ」

自分のことを言われているわけではないのに、言葉がズンと胸に突き刺さる。
私の行動も、屁理屈を捏ねているが結局“逃げ”だからだ。

分かっている。でも……湖の姫と龍は、湖底で末永く幸せだったと思いたい。

「太田のおじいちゃん、ありがとうございます」

深々と頭を下げる。
その頭を温かな手が撫でる。

「岬ちゃんよ、身を沈めるんじゃないぞ。人は過去の上に今を重ね、未来を作っているんだ。過去に囚われていては未来は築けない。今を生きろ」

太田のおじいちゃんは私の過去を知らない。でも、日々、会ううちに何かを感じ取っていたのだろう。流石、年の功だ。言葉が胸に染みる。

「大丈夫、日々、美味しい物が待っているし……」と言ったところで、湖陽さんの笑みが浮かぶ。

いやいや、湖陽さん自身じゃなくて、湖陽さんが作る美味しい物のことだ、とその顔を振り払う。
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