凪ぐ湖面のように
〈本当だ、誰だ、勝手に!〉

吐き捨てるように言って、ちょっと電話切るね、と通話が途切れる。

もしかしたら私より怒っていたかも……それがちょっと嬉しくて、スマホをソッと撫でる。

湖陽さんから電話があったのは、それから二時間程後だった。

〈水谷さんに連絡をしたら、すぐ対処してくれた。あの時周りにいた誰かがが勝手に載せたものらしい。ネタ元はもう削除されている〉

聞けば、テレビ局にそういう部署があるそうだ。

〈ただ、少し時間が経っているから、どれだけ出回っているか把握できないみたいだ。物凄く謝られたよ〉

ネットは便利だが、一歩間違うと怖い。だから私自身、細心の注意を払ってきた。しかし、不測の事態は起こるものだ。水谷さんが悪いわけではない。番組に出演すると決めた以上、私自身にも責任はある。

「逆に申し訳無かったですね、お手間を取らせてしまって」
〈でも、いろいろバレたくないんだろ〉

心配気な湖陽さんの声が耳に届く。

「そうですけど……インターネットテレビだし、それほどメジャーじゃないし……」

湖陽さんを安心させたくてそう言ったが、やはりこの地にいることは、過去の誰にも知られたくなかった。
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