凪ぐ湖面のように
えっ、と私も出入り口に目を向けた。

「湖陽……兄さん」

この人が……人妻には全く見えなかった。女神のように美しい女性だった。

「美希、どうしたんだ? 里帰りか?」

湖陽さんの顔に戸惑いの色が浮かぶ。

「それもあるけど、ご利益テレビを見て……」

ああ、と納得気に湖陽さんは苦笑いを浮かべる。

「夕姫には連絡してあったのか? あいつ夕方まで戻らないよ」

「あっ、ううん」と首を横に振り、そこで初めて私の存在を知ったように、あっと恐縮する。

「湖陽兄さん、そちらの方は?」
「――彼女は……海里岬さん。店の常連さん」

湖陽さんの返事に私は固まる。
今まで誰に対しても。『彼女だ』と紹介してきたのに……。

「初めまして、私、湖陽……兄さんの幼馴染で立木美希と申します」

私は見逃さなかった。それは思い違いではなかった。
湖陽さんが私を『常連』といった時、確かに彼女は小さく安堵の息を吐いた。

どういう事だろう、人妻なのに……。
そんなことを考えながら、挨拶を交わす。
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