凪ぐ湖面のように
「ごめんなさい」と言いながらも美希さんは笑っている。
居た堪れない。腰を上げ「お先に失礼します」と頭を下げて、店を出る。

モヤモヤとする思い。浮かんでは消える二人の姿。煌めくプラチナの指輪。

車を発進させて、湖岸道路を走る。
夏とも秋とも違う初冬の湖は冷たく淋しい。私の心と一緒だ。

このまま帰りたくない……と私は途中にある湖沿いの無料駐車場に車を停めた。

ボンヤリと湖を眺めながら思い浮かんだのは――美希さんは離婚する気だという思いだった。恐らくこの考えは間違っていないだろう。

湖陽さんはどうするのだろう? 美希さんの想いに応えるのだろうか?
美男美女が並んだ姿は文句がつけられないほどお似合いだった。

湖陽さんへの想いに気付いたばかりだというのに……溜息が出る。

それにしても……私を好きだと言っておいて、キスまでしておいて、好きだった女性が現れた途端、あの言動は何だ? 人を馬鹿にしている。
< 112 / 151 >

この作品をシェア

pagetop