凪ぐ湖面のように
フツフツと込み上げる怒りをハンドルに叩きつける。が、クラクションも一緒に鳴らしてしまったようだ。

パフンと大きな音が辺りに響き、羽を休めていた鴨が一斉に飛び立つ。
少しオレンジ色がかった空に悠然と羽ばたく鴨たち。

鴨の姿に『自由』という二文字が浮かぶ。
何者にも何事にも囚われず、心のまま羽ばたけるモノ達が羨ましい。

海のことにしても、湖陽さんのことにしても、何かに捉われると私は雁字搦めになり、心が不自由になる。

風が出てきたのか湖面に波が立ち始める。波が陽を浴び煌めく。

湖の姫は、好いた若武者が龍であったことに迷いは無かったのだろうか……?

あの話を聞くと何ら迷いなく龍と一生を共にしようと決心したように思えたが……。

私の心が不自由というのはこういうところだ。考え過ぎて自分で自分の心を縛ってしまう。

持って生まれた性格だから仕方がない、といえばそれまでだが……。
あんな風に……美希さんみたいに、ハッキリ言葉にできたらスッキリするだろうに……。

その日は、大好きな湖に心癒されることなく帰宅すると、何も考えたくない、とベッドに潜り込み、そのまま朝まで眠ってしまった。
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