凪ぐ湖面のように
次の日も、そのまた次の日も、湖陽さんから連絡は無かった。
自然消滅的に恋人ごっこが終わったのだな、と思った。

「さぁ、仕事! 仕事!」

パソコンの前に座り、キーを叩こうとするが、指が動かない。
初めてだ、こんなこと。
海の時でさえ彼を忘れようと我武者羅に仕事をしたのに……。

何なの! どうして!
指先が霞み始め、ああ、私は泣いているんだと他人事のように思う。

湖陽さんは海への恋心は『ままごとのような恋』だと言った。
今、初めてその意味が分かったような気がする。

あのキスが忘れられない。湖陽さんが欲しい! 心も体も丸ごと……。
今更気付いても遅いのに……。

思いを自覚すると涙が止めどなく溢れてくる。

どうしよう、この止められない想い。
自分の腕で震える自分の身体を抱き締め、行き場のない想いを慰める。

もう行けないな、カフェ・レイクには……。
そして、この街にも……居られない。

――また逃げるのと自分に問う。
逃げる。それしか自身を守る手立てが無い!

なら、早い方がいいのでは?
そうだ、早い方がイイ! 早速、条件の合う場所をパソコンで探し始める。
< 114 / 151 >

この作品をシェア

pagetop