凪ぐ湖面のように
「元気だったか?」

日に焼けた精悍な顔に白い歯。海とも湖陽さんとも違うイケメンだ。
さっきのウエイトレスも悩ましげな瞳で彼を見ていた。

「相変わらず、雄フェロモンがダダ漏れだね」
「開口一番がそれか」

グーの手で口元を覆い舜がクッと笑った。

「お前こそ相変わらずだな。全然、俺の魅力にやられない」
「ナルシシスト振りは健在のようね」

ポンポンと軽快に飛び出る言葉が、否応無しに過去を思い出させる。

「で、どうして突然いなくなったんだ?」

舜が真面目な顔で訊ねる。
そうだね、怒るのも無理ない。

「過去を葬るため」

呟くように言うと、二人の間に沈黙が流れる。

「お待たせいたしましたぁ」

さっきのウエイトレスが、最上級の笑顔を舜に向け、コーヒーを置く。

場の空気を読まないとはこういうことを言うのだな、と思いながらも、助かった、と安堵の息を小さく吐く。

「全てを忘れたかったという意味か?」

コーヒーを一口飲み、舜が訊ねる。
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