凪ぐ湖面のように
「忘れるという表現はちょっと違うけど……とにかく、海と共に私自身を葬り去りたかったの」

「意味が分からん!」と舜が激しく頭を振る。

理系脳の彼には理解出来ないだろう、こんなメルヘンチックな言動。だからだ、何も言わず彼の元から去ったのは……。

「でも、元気にしていたなら、いい!」
「後追い自殺でもしたと思った?」

茶化したように言うと、「ああ、思った」舜の怒りに満ちた言葉が返ってくる。
また怒らせた。

「――ごめん。心配かけて……」
「悪かったと思ったのなら、今、住んでいるところを言え!」

ううん、と首を横に振る。

「ごめん。それでも昔に戻る気はないの」
「なぜだ!」
「思い出したくないから……」

「俺は……」と何か言いかける舜の言葉を掌で止める。

「私は過去に戻るつもりはない。今、穏やかに過ごしているの。この生活を乱さないで」

安否を気遣ってくれていたのに……酷い言葉を発していると分かっている。
でも、それが私の精一杯の気持ちだった。こんな私なんて忘れて明るい未来に向かって欲しい。
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