凪ぐ湖面のように
「ほら、君も知っているだろう『奈落の愛男(あいだん)』あのメンバーだよ」

父の言葉で、おお、と番組を思い出す。

「高視聴率だったから、そのご褒美旅行なの。元気だった、岬ちゃん」

小町さんがにこやかに笑う。

「あっ、失礼しました。ご無沙汰しております。もう、ビックリしちゃって、テンパってしまいました」

クスクス笑いながら小町さんが「相変わらず面白いわね」と、あまり嬉しくない感想を述べる。

「その愛男メンバーに、どうしてうちの両親が?」
「それなのよ、どうしてこの間、言ってくれなかったの!」

何をだろうと思っていると、小町さんが、「世界の海里潮と波子の娘だってこと」と言う。

世界のって、大袈裟なと思いながら、「言いませんでした?」と惚ける。

昔から私は両親のことは大っぴらにしないようにしてきた。私にとって両親は、極々普通の人だからだ。

だが、他人が加わると面倒くさい人物になる。その面倒くささを避けるためだ。

「知らなかった? 潮と波子とは公私共に数十年来の友達なの」

それは知らなかった。

「今回、愛男でいろいろご尽力頂いて、だから、行く先を彼等がいるロサンゼルスにしたの」
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