凪ぐ湖面のように
「貴女、そんなに食べて太らないの?」

主役の桜智役、古泉明日香だった。何という小さな顔。

「はい。胃下垂でもないんですけどね」
「大食いの番組に出られそうね。羨ましい」

古泉明日香が恨めしげに皿に乗った料理を見つめる。

「えっと、私は」と自己紹介をしかけたが、「知ってる、岬ちゃんでしょう」と私の頬をフニフニと抓る。

「プリプリの肌、羨ましい」

若手女優ナンバーワンと言われる古泉明日香なのに、何が羨ましいのだろう?

「私の方が羨ましいですけど」
「どこが? 言ってみて」

小さな顔、お人形みたいな綺麗な顔立ち、バランスの取れた身体、全てが、と言うと、なぜか明日香さんは悲しげに長い睫毛を伏せる。

「それは全て作られたもの」
「えっ、全身整形ですか?」

ブッと吹き出して、「違うわよ」と明日香さんが笑う。あっ、可愛い。

「いろいろな物を我慢して、無理して作っているからだってこと」

どことなく投げやりな言い方だった。でも……。
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