凪ぐ湖面のように
 *


明日香さんから『愛男メンバーは二日後、帰国する』と聞いた。

「帰国してからも、また、会ってね」

そう言ってプライベートの電話番号とメールアドレスをくれたが、売れっ子女優と友達? 何となくその行為が小町さんに対抗してだと思ってしまう、私は捻くれているせいだろうか?

その小町さんは、『写真集の撮影で残るらしいですよ』と明日香さんが言った通り、二月の頭までこの地に滞在するらしい。そして、その写真を撮るのは父だった。

まだまだ、一波乱も二波乱もありそうな予感がする。

こうなったら、私の方が帰国を早めるかと、あーでもないこーでもない、と考えているうちに、一週間が過ぎた。今のところ平和な日々が続いている。

そして、一月の半ば、完全にお正月の気分も抜けた遅い朝。私はようやく一本脱稿した。

気分良く向かいのカフェでブランチを取っていると、「岬」と誰かに呼ばれる。

この声にも聞き覚えがあり、デジャヴと薄気味悪さを覚えながらも声の方を向く。そして、思った。こりゃあ病気だ。仕事のし過ぎかもしれない……と。
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