凪ぐ湖面のように
「何を現実逃避しているんだい?」

幻が近付いて来る。

「いつもこんな遠くまで逃避するの?」

私の許可なく隣に座った。

これは悪夢だ! 今、起きていることが信じられず、恐る恐る手を伸ばして隣に座る人の頬をギュッと抓る。

「痛い! 抓るなら自分の頬を抓れば!」

痛いと言った。ということは……現実。

「――貴方、湖陽さん?」
「僕じゃなかったら誰だと言うんだい?」
「そっくりさん……とか?」

フンと鼻で笑われ、「可愛子ぶって、首を傾げても……」真面目腐った顔がクシャッと崩れ、「可愛い!」と言う。

「岬……会いたかった」

長い腕が伸び、その掌が私の頬を撫でる。
その温かな感触で本物の湖陽さんだと悟る。

「嘘っ! どうしてここにいるんですか!」

思わず椅子の背に仰け反る。

「反応が遅いよ。落ち着いて! しっかり息をして!」

そんなこと言われても、何なのこの状況?

「あんな写真を見せられたら……いや、違う。誤解を解きに来た。ごめん、悲しませて」

どういう意味?

「美希さんはどうしたんですか? 一緒に来たんですか?」

それは嫌だなぁ……と思いながら、そうだ、私達の恋人ごっこは終わったんだと現実に戻る。

「そのことについて、説明に来た」
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