凪ぐ湖面のように
『でも……ラバーという単語、要ります?』
『要るでしょう。カモフラージュには』

そう言われると、そうなのか、と思ってしまう単細胞な私だが、間違いなくそのとおりだった。

『貴女、本当にマスターの彼女なんだ』

三角ネームプレートの登場に、知り合いでもないのに、やたら声を掛けてくる人が増えた。それも女性ばかり。その後必ず夕姫さんが、『ファンの一人よ』と耳打ちする。

未だにそういうことがよくあり、湖陽さんの根強い人気をその度に思い知る。
その中には物凄い美女もいて、本当に誤解されてもいいのだろうかとちょっと心配になることもある。

夕姫さん曰く、プレートの登場以来、ストカーまがいのファンはグンと減ったらしいが、今尚、何人か残っているようだ。

『でもね』と夕姫さんは言い、『そういう熱烈なファンが一番厄介なの』と眉を顰める。だから、まだまだお役御免になりそうにない。

しかし、今までこのようなお誘いは受けたことはなかった。おそらく彼のことだ、魂胆があって誘ったのだろう、と思ったら――。
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