凪ぐ湖面のように
何ですとぉ? 空耳。

「プリーズ、ワンス・モア」

日本語英語で聞き直すと、「一緒に」「ホテルに」「行って下さい」と、ご丁寧に一言ずつ区切り、ハッキリと言ってくれたが……。

「ホテル?」

まさか、と両腕をクロスして、「ホテルですって!」と胸の辺りを隠す。

「イヤラシイです。破廉恥です。湖陽さんがそんな人だと思っていませんでした」

一気に言ってギロリと睨むが……。

「――えっと、物凄く勝手に盛り上がっているところを悪いんだけど、それ、勘違いだから」

握り拳で口元を押さえ、笑いを堪えながら「何、想像してんだか」と聞こえるように呟く湖陽さん。

勘違い? ポカンと彼を見ながら、「――なら、何をしに行くんですか?」と訊ねると、とんでもない言葉が返ってきた。

「それなんだけど、見合いをブチ壊して欲しいんだ」
「お見合い!」

湖陽さんの説明によると、彼の亡くなった母親の妹、すなわち叔母さんが、とてつもない人らしい。どう、とてつもないのか聞いたら、会えば分かると教えてくれない。

「嫌ですよ、そんなとてつもない人と会うなんて」

断固拒否の構えに出たが、魅惑の交換条件を出され、あっさり崩落した。
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