凪ぐ湖面のように
本当、勘弁して欲しいよ、と湖陽さんは顔を顰め、深く溜息を付く。
その悲哀の色に、イケメンって可哀想なんだ、とちょっと同情する。

「で、夕姫が、『恋人がいると公言しているのに、その女、馬鹿じゃない!』とキレ、どうせなら見合いの席に君を連れて行き、『ラブラブを見せてブチ壊してこい!』と命令されたわけ」

それが『ホテルに一緒に行って下さい』に繋がるのか、と理解する。

「どうしてそれを今、言うんですか。事前に言ってくれたらよかったものを」

非難するように言う。それはそうだろう。こんな重要課題、当日、言う方が間違っている。

「事前に言ったら断っていただろう?」

不貞腐れ気味な彼の様子に、フムと考え、無きにしも非ず、と同意する。

「ほらね、断られたら『恋人はいない』になり、カモフラージュしてきたことが全てオジャンになる」

確かに。湖陽さんの努力が水の泡だ。

「切羽詰まると人間、思考がぶっ飛びますものね。ギリギリに言って逃げ道を塞ぐ、それを狙った訳ですね」

湖陽さんの口角が僅かに上がる。
それで、やっぱりな、と思う。本当、策士なイケメンだと。
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