凪ぐ湖面のように
「それが終わったら、この景色を堪能していいんですよね?」
「勿論! 好きなだけどうぞ」

人前では絶対に見せない満面の笑みを携え、湖陽さんが窓に向かって大きく両腕を広げた。そちらに目をやり、溜息を一つ吐くと訊ねる。

「何時からですか?」
「ってことはOKなんだね?」

湖陽さんは嬉々としながら腕の時計に視線を落とし、「確か……十一時半だったよな」と呟き、視線を上げた。

「十一時半にホテルです」
「その時間なら、昼食をご一緒に、の流ですね」

そして、食前後どちらかで、『お若い方だけで』とか言って、二人だけにさせられるパターンだ。

そんな風な小説を書いたことがある。モデルとなったのは、見合い歴二年、両手両足の指でも足りないぐらい見合いをしていた近所のお姉さん。

彼女、あれからどうなったかなぁ。

よくよく聞けば、お姉さんには好きな人がいたらしい。しかし、相手は結婚の意思がないようで、お姉さんに相談もしないで海外支援ボランティアに参加し、ニューギニアに行ってしまったらしい。

下戸の彼女はヤケ酒ならぬ『ヤケ見合いだ』と言っては見合いをしていたが、好きな人が忘れられなかったから、返事はいつもNOだった。

で、私はチャッカリこの話を作品に使わせてもらった。かなり評判の良い作品に仕上がったと記憶する。
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