凪ぐ湖面のように
 *


ホテルは、店から車で三十分ほど南に行った、湖畔の入江の先端に威風堂々と建っていた。

この辺りはまだ私のテリトリーではない。ホテルも以前から気になっていたのだが、道がうねっていて、私のドライブテクニックでは危険だと断念した場所だった。

しかし、噂には聞いていたが、本当に素敵なホテルだった。
第一印象は、姫物語に出てくる白亜の古城といったところだ。

だが、それはあながち外れていなかった。

パンフレットには『本物の古城をヨーロッパから移転させました』と書いてあった。但し、それは外観だけで、内の仕様は使い勝手が良いように近代的に作り変えられていた。

「ゴージャスでキュートなホテルですね。でも、眺めで言えば、私はカフェからの方が好きです」

「そう、嬉しいよ。ありがとう」湖陽さんがクシャと笑む。

それはともかくとして、ここに着いてから、ずっと気になっていたことがある。

「湖陽さん、手……」

そう、ずっと繋がれているのだ。それも恋人繋ぎという繋ぎ方で。
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