凪ぐ湖面のように
エレベーターがチンとなり十二階に着く。するとどこから見ていたのか、支配人らしき人が飛んできた。

「小野寺様、お持ちしておりました」

深く頭を垂れる支配人に、そこまで下げなくても、と思っていると、小町さんが言う。

「正式なお辞儀の角度を、マナー教室で学ぶ必要があるみたいね」

さり気なく的を射た嫌味に、支配人は恐悦至極とまた頭を下げる。どうやら緊張のあまり彼には嫌味が通じていないようだ。

「年齢を重ね、権力や地位を知ると、へつらう人間が出没するんだよね」

その典型だね、と湖陽さんがソッと耳打ちする。

なるほど面白い。権力も地位も、ついでに名誉も関係なく生きている私には、そういう人たちが住む世界は別世界だ。興味深いが今日はおとなしくスルーして、後日、観察に来ようと画策する。

そんな支配人に案内されたのは、完全個室の『貴賓室』とプレートが掲げられた部屋だった。

支配人がノックをすると中から女性の返事が聞こえ、ドアが開けられる。

「小野寺様をお連れいたしました」

開け放たれたドアの向こうに、二人の女性が見える。
一言で言うなら、煌びやか、だろうか。
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