凪ぐ湖面のように
いいえ、と首を横に振る。
湧き上がった感情は、軽蔑とは違う何か別な感情だったからだ。

「男性の性ぐらい私も知っています。十代の男性が、やりたい盛りの猿だということも」

クッと湖陽さんが笑う。

「手厳しいストレートな言葉ですが、その通りなので反論はしません。僕は、本当に好きな子には手が出せなかったヘタレな猿ですから」

湖陽さんの言葉を聞きながら、なら、私も大切にされていたのだな、と海と舜を思っていると、突然、頬を抓られた。

「何をするんですか?」

軽くなので痛くはないが、その行為は許し難い。

「隣に現恋人が座っているのに、過去の男を思い出しているからです」

現恋人って……カモフラージュ、偽のでしょう? さらに言うなら自分だって、と反論したかったが、不毛な言い合いになると思い止めた。

「ということで、これより先、恋バナ経験のために、店以外でも恋人同士になりきって過ごしますからそのつもりで」

決定? 本人の意思を無視して決定?
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