凪ぐ湖面のように
「そうそう、スマホの番号とアドレス、教えて下さい。ラインとかしてますか?」

何だ何だ? 一気に親密度を深めてきたぞ!

「あっあのですね、湖陽さん……」
「NOは無しです。恋バナ経験です」

有無も言わさぬ湖陽さんの物言いに、結局……流されてしまった。
何となく掌で踊らされているような……。

「来週の定休日にドライブしましょう。気付いたんですが、岬さんってご近所でしか湖を見たことないでしょう?」

ええ、と頷き、「あのホテルも初めてでした」と伝えると、「また行きましょうね」と意味深に笑う。その顔がちょっとエロく見えたので、先手必勝と釘を刺す。

「湖陽さん、申しておきますが、私のバージンを湖陽さんに捧げるつもりはございませんので、悪しからず」

もし、作家という職業を持たなかったら、私は海のために尼寺に身を置き、処女のまま天に召され、そこで彼に捧げようと決めていた。

「何? もしかしたら海さんのために一生清いままでいるつもりとか」

「悪い?」と言うと、「信じられない!」と言って仰け反った。
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