凪ぐ湖面のように
あれだけお昼を食べたのに……途端に空腹を感じる。いや、時間はかなり経っている。ランチはすでに消化済みだ。

「それって……もう準備されているってことですよね?」
「ええ、この風景を見ながら召し上がって頂こうと、準備万端です」

この風景……と窓の外を見る。
そうだ、人の好意を無駄にしてはいけない。

「なら、ご相伴に預かります」

決して、彼に踊らされているわけではない。食べ物に釣られた訳でもない。

「それは良かった。食材を無駄にするところでした」
「そうですね、食べ物を無駄にしてはいけませんよね」

私の返事に湖陽さんがニコリと笑う。全ての女が騙される笑みだ。私は騙されないが。

「では、準備をしてきますので、この景色を存分にご堪能下さい」

湖陽さんが厨房に消え、私はまた視線を窓の外に向けた。

太陽は既に湖面へと落ちかけていた。これでは食事をする前に沈んでしまうなと少し残念に思う。

それにしても大きな太陽だ。湖面に向かい沈むにつれ、世界は徐々に黄金色に染まっていく。ノスタルジーを感じさせるセピア色の世界だ。

いつもなら海を思って、胸が詰まり、涙が込み上げるのだが、今日はそれに何か違う者がプラスされているように感じる。

黄金色はゆっくりオレンジ色に変わり、空の色がイエローからダークブルーと美しいコントラストを魅せ始めた。
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