凪ぐ湖面のように
「岬の頬って羽二重餅みたいだね」

ん……? 今、何て言った……?

「本当、美味しそう。岬って」

今、しっかりと聞いた。呼び捨てだったぞ。

「何をキョトンとしているのかな、岬」

――3回目。

「何って、いきなり呼び捨て……」
「恋人同士なら、当然じゃない?」

当然なのか?

「そんなに真剣に悩まないで。ほら、冷めないうちに召し上がれ」

湖陽さんはクスクス笑いながら、スープカップに口を付ける。

ランチをあれだけ食べたのに……秋の香りが鼻腔をくすぐる。すると条件反射のようにキューッとお腹が鳴る。

「ほら、お腹も催促しているよ」

「――湖陽さんって、デリカシーが全くありませんね。大変残念なイケメンです。こういう時はスルーして聞かなかったフリをするものです」

恥ずかしさで、逆ギレしながらスープを飲む。
が……うわっ! 思わずパンプキン色の液体を凝視してしまった。

「湖陽さん、何ですかこれ! メチャクチャ濃厚で美味しんですけど」
「――僕は怒られながら褒めてもらったの、初めてかも」

アッと乗り出した身を後ろに引き、「すみません、興奮してしまいました」と項垂れる。
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