凪ぐ湖面のように
「謝らないでよ。興奮するほど美味しいということなんだろ? 嬉しいよ」

満足そうな笑みを浮かべ、湖陽さんはカップの中のスープをスプーンでゆっくりかき混ぜる。

「美味しいのは、南瓜が美味しいからだよ」

そうだった! 農大出身の湖陽さんは、野菜を極めるため、留学までしようとした人だった。食材を吟味しているはずだ。

「このスープに使った南瓜は常連の太田さんとこのなんだ」
「太田って、太田のおじいちゃのことですよね?」

アハハと湖陽さんが笑う。

「岬だけかもしれない。太田さんをおじいちゃん呼びして怒られないの」

結局、『岬』呼びに定着してしまった。

「そうなんですか? お出会いしてからずっとそう呼んでいるもので」

太田のおじいちゃんとは、この店の常連仲間。一見強面だが、とても優しい人で、七十四歳と公言しているが、とても若々しくてそんな歳には見えない。だから、おじいちゃんと呼ばれたくないのだと思う。

「私も太田さんとお呼びした方がいいですか?」
「ううん、そんな風に呼んだら逆に叱られるんじゃないかな」
「じゃあ、このままで」
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