凪ぐ湖面のように
太田のおじいちゃんは大地主で、今は隠居の身だが、家業は不動産屋だそうだ。
若い頃から野菜作りが趣味で、現役を引退して本格的に畑仕事を始めたそうだ。

「湖陽さんがいろいろとアドバイスされたんですよね?」

太田のおじいちゃんからそう聞いていた。

「農大出ってだけで、無理矢理ね。あの人、脅すんだよ。アドバイスしてくれなかったら地上げするって。犯罪の一歩手前だと思わない?」

強面でしれっとやりそうだ。

「まっ、だから、こんな美味しい南瓜を格安で分けてもらえるんだけどね」

太田のおじいちゃんの畑仕事は趣味の域を超えているらしい。

「ということは、湖陽さんにも感謝ですね」
「うんうん、感謝の気持ちはチューでいいよ」

眉を顰めしみじみと言う。

「イケメン顔でふざけるのも大概にして下さい」
「ふざけていないのに……でも、ごめん」

素直に謝り、シュンとするイケメン。
これはこれで、ちょっと美味しいシチュエーションだ。

しばらくこのまま放置しよう、と黙って食事を続ける。
二人の間に沈黙が流れる。

湖陽さんはどうか知らないが、私はこういう時間、嫌いではない。
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