凪ぐ湖面のように
湖陽さんはそのデートの度に、お弁当を作ってきてくれる。
流石プロと言わしめるほど超絶美味で……内緒だが二キロも体重が増えた。
喜んでいいのか悪いのか、乙女心は今、複雑に揺れている。

そんな平和な時間を過ごしながらも、一方では締切りに追われアタフタとする私も健在だった。

こういう日々が湖陽さんの言う、充実した毎日なのかもしれない、と思う今日この頃だが、これが賭けの対象となる『私が私の今を輝いていると思えるか』と言えば……違う気がする。

時間的には確かに充実していると思うが……時々、心がフッとその場を離れ過去に戻る。

その度に否応無く思い出す……痛み。
輝き云々以前の問題だ。

あの手この手で有意義な時間を与えてくれる湖陽さんに申し訳なくなる。

「湖陽さん」

だから私は正直な思いを伝えることにした。

「やっぱり……」
「ストップ!」

間髪入れず湖陽さんが言葉を止める。

「今日のデートを中止する、と言う言葉は聞かないから」

なぜ分かったのだろう?

「どうして分かったのかって?」

えっ、言葉が漏れていた?
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