凪ぐ湖面のように
それに気付いた湖陽さんが、キュッと手を握り締めた。

「言っただろ。僕はデートをしたことがないって」

そうだった。

「そりゃあ、飲みに行った先で、女性の方から腕を組まれ、振り払うのが面倒臭くて、そのままにした覚えは何度もあるけどね」

そういうことはあるんだ。

「でも、手は繋がなかった。ヌーディーな肌と肌が触れ合うなんて気持ち悪い」

それ矛盾していない?

「SEXするのに?」

私のストレートな言葉に湖陽さんは何とも複雑な顔になる。

「それとこれとは違うんだよね、って、この美しい景色の中でその単語はどうかと思うよ」

苦笑する湖陽さんの後半部分の言葉は無視して、何が違うというのだろう……と訊くと、「気持ちの問題なんだよね」と言って薄く笑った。

「当時の僕にとってSEXは欲望の捌け口。ただそれだけ。本当、最低の男だろ」

頷きはしないが、確かに、と心の中で呟く。

「でも、美希とはその行為よりまず手を繋ぎたいって思ったんだ。それ以来、僕の中では、異性と手を繋ぐ=神聖な行為、という図式が出来上がった」

美希さんって女神なのか?

「そんな神聖な行為を安売りしちゃいけないだろう? で、結局、プライベートで手を繋いだことがないんだよ」

どうしたのだろう……胸の中がザワザワする。自分でも何に対してだか分からないが……。
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